群馬の柔道事故調査委員会が報告書概要を公表

群馬県館林市立中学校の柔道事故に対し、「柔道安全指導検討委員会」が、「部員の技能・体格差に充分配慮する必要があった」という報告書の概要を、12月28日に公表した。
http://digital.asahi.com/articles/ASJDX43JFJDXUHNB005.html?rm=440
http://www.asahi.com/articles/DA3S12727562.html
http://mainichi.jp/articles/20161229/ddl/k10/040/153000c
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161228/k10010823321000.html

「柔道安全指導検討委員会」は、
「体格差がある場合は、投げる直前で技を止めたり、かける技を制限したり、顧問が練習相手となる必要がある」と提言しているが、「体格差が事故を引き起こした」と、なぜ事故分析をきちんと公表しないのか?

「大外刈りは重大事故につながる例が多いので、投げる間隔をあけたり、投げる回数を減らしたりする配慮が必要だった」と提言しているが、「大外刈りは危険だとあれほど言われているのに、どうして顧問が不在の時に副顧問は不用意に大外刈りの練習をさせたのか」と、なぜ事故原因に切り込まないのか?

「頭を打つなどした生徒が頭痛や吐き気を訴え意識障害の兆しがみられた場合は、指導者はすぐに救急車を呼ぶべきだ」と提言しているが、「どうして学校は19分間も救急車を呼ばなかったのか」という問題についてなぜ究明しないのか?
http://mainichi.jp/articles/20161215/ddl/k10/040/203000c
もしすぐに救急車を呼んでいれば、受傷生徒はここまで重篤な病状にならずに済んだかもしれないのだ。事実、柔道授業中に発生した心臓震盪に対する処置で、学校正門前に消防署があるにも関わらず、本件同様に119番通報が遅れて蘇生機会を逸した、当会会員家族の死亡事故事例もあるからだ。

「修学旅行などによる中断を挿んで、事故当日は11日ぶりの練習だったのだから、体力面に配慮すべきだった」とある。

昨年8月14日に横浜で発生した高校1年生の熱中症死亡事故も、お盆休みで涼しい郷里に1週間帰郷した直後の練習で発生している。 定期試験などで1~2週間部活動休みだった後、いつもより長い練習をして事故が発生している事例もある。「長期休み明け直後の過度の練習」は、事故究明に非常に重要なキーワードとなる。

今回の重篤事故の2週間前、体重117kgの今回の事故と同じ男子生徒との乱取りで中3年女子生徒が骨折したことに関し、「指導内容や練習計画を慎重に検討すべきだった」と指摘しているが、そのとおりである。
指導者がこの時きちんと対策を講じていれば、この男子生徒は2度も加害者にならずに済んだのだ。
「ヒヤリハット(ハインリッヒの法則)」は、全柔連の「柔道の安全指導」冊子にもわざわざ書いてあるが、この指導者はそれを読んでいないのか、もしくは軽視しているのか。

さらに当会が強く疑問を抱くのは、
・事故は5月31日に発生しているのに、毎日新聞と朝日新聞が7月20日報じるまで学校も教育委員会も動かなかった。しかし、公表されたとたんに指導者講習会を開催し、調査委員会を立ち上げた。
・調査委員会を、「第三者事故調査委員会」ではなく「柔道安全指導検討委員会」という曖昧な名称にすることによって「事故」を隠そうとしているかのようである。
・今回の事故の2週間前に発生した、同じ男子生徒が女子生徒を骨折させる事故では、何の対応策も取らずに放置していた。今回の大事故発生後にやっと、この男子生徒の相手は副顧問がすることになった。
等の点である。
なぜ学校や教育委員会は事故究明と事故防止に動かないのか。
「親の心情を配慮して」などと他の学校事故でもよく使われる言い訳をしているが、文科省が今年3月に出した「学校事故対応に関する指針」に沿って、事故直後から事故究明や聞き取り調査を行なってこそ、保護者は安堵できるのである。
http://mainichi.jp/articles/20160721/k00/00m/040/150000c
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1369565.htm

文科省は、「学校事故対応に関する指針」の趣旨・内容に関する認識が十分でないと思われる例が、未だ一部の学校及び学校の設置者において見受けられると判断している。そこで同省は、事故発生後に適切な対応を行うようにと、12月21日に「学校事故対応に関する指針に基づく適切な事故対応の推進について」の通知を出した。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1380824.htm
館林の事例は、まさにこの「認識が十分でないと思われる例」にあてはまるのではないだろうか。

朝日新聞「自由自在」に、中学校の柔道部員数が53%に減っていると書いてあり、産経新聞には高校の柔道部員数が10年前の6割程度になったとある。
http://www.sankei.com/sports/news/161128/spo1611280004-n4.html
3年前に当会が2001年~2013年の中学校の柔道部員数の減少率を調べた時は36.1%減だった。
ちなみに同じ2001年~2013年の中学校の生徒数の減少率は11.4%である。
これは、柔道部員数の減少の原因が単に生徒数の減少だけではないことを示している。

柔道界全体が、よほどの覚悟を持って早急に事故防止に取り組まないと、いずれ取り返しがつかないことになるだろう。

2016年12月30日




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