「名義貸し」って、何?

新潟県糸魚川市立中学校相撲クラブで、1年生が3年生に顔や腹を殴られて、前歯を根元から折った事件に対し、新潟県警は昨年12月15日加害生徒を傷害の疑いで書類送検した。
〔糸魚川いじめ、中3男子を書類送検 県警、顔殴り歯を折った疑いで〕2016/12/16新潟日報
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/national/20161216297082.html

上記の1年生は、5月にもこの3年生らに体当たりされて転倒し、腕や両膝にケガをしている。更に学校の敷地内で、逆さに抱えられてコンクリートの床に頭から落とされるプロレス技をかけられており、9月に転校した。もう一人の1年生も、3年生らに殴られたり頭をたたかれたりする暴行を受けて、5月に転校している。2年生の一人は3年生に殴られる1年生を押さえつける役をした一方、自分も3年生から殴られる被害に遭っていた。
〔いじめ 相撲クラブで前歯折る 指導の職員も口裏合わせ〕2016/10/24毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20161024/k00/00e/040/126000c
〔いじめ問題、学校職員も隠蔽に加担:新潟〕2016/10/24きょういくブログ
http://kyouikublog.wpblog.jp/11734.html
〔3年生全員が加害者…新潟・糸魚川の相撲クラブ〕2016/11/16毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/120000c

この記事を読むと、不可思議な内容に気づくだろう。
☆この中学校は公立なのに「合宿所」がある
☆前歯の折れた生徒を病院に連れて行ったのは、保護者でも教員でもない「県体育協会から派遣された相撲の育成指導者」だった。 市教育委員会の説明によると、この指導者は、親元を離れ生活する相撲クラブの生徒をサポートするため同校に常駐し、生徒たちのケアに当たっていた。

当相撲クラブの実態は、関係者の間で、「名義貸し」と呼ばれるものである。
つまり旅館の経営者である上記の相撲指導者が、全国から集めた強い中学生を自分の旅館で合宿生活をさせ、学区の公立中学に通わせながら指導をしていたのである。
そしていじめは、この合宿所で発生した。

このような「名義貸し」は、全国大会で強豪校と言われる公立中学校によく見られる。
☆全国から強豪選手を集めた道場やクラブは、学校の名を借りて、全国大会に出場できる
公立中学校は、自力での努力をせずに、学校としての特色や知名度を上げることができる
このように「名義貸し」は学校と道場・クラブ双方にメリットがあるため、多くの問題をはらみながらも放置され、黙認され続けている。

今回の事態に対し市が混迷していることが、糸魚川市議会の様子からわかる。
〔能生中相撲クラブ暴力・いじめ問題 クラブ側と関係改善進まず 市教委が説明 糸魚川市議会
総文常任委〕2016/12/20上越タイムス
http://digital.j-times.jp/Contents/20161220/34b225cd-df98-4cd6-a9c4-2fbfad6f1fce

公立中学校で「名義貸し」を行なって、問題を起こした不祥事例は実は他にいくつもある。
〔物差しでのど突き、エアガン発射…「階段から転んだことにしておけ」いじめ隠蔽指示、
中学運動部顧問の「勝利至上主義」〕2016/04/15産経新聞
http://www.sankei.com/west/news/160415/wst1604150004-n1.html
〔部活動いじめ隠蔽で顧問教諭停職6ヶ月:兵庫・姫路市〕2016/02/24きょういくブログ
http://kyouikublog.wpblog.jp/9875.html

この姫路市立中学校柔道部は、全国大会出場の常連強豪校である。
中学1年生の被害生徒は2年生、3年生からの暴力で胸の骨を折る大けがをしたが、顧問は「階段から落ちたことにしろ」と指示した。
加害者の2・3年生はこの生徒を含めた1年生部員たちに、物差しで喉を突く、エアガンで撃つ、揮発性の香水を腕にかけて火をつける、プールや海に無理に沈める、自分達が嫌いな食べ物や食べきれなかったものを食べさせる、それを食べきれないと暴行するなど、その蛮行は枚挙にいとまがない。これが中学生のすることかと震撼させられるほどである。

この柔道部の部員54人中42人が県外を含む学区外の出身者で、学校近くの「下宿で共同生活」をしていて、今回の加害生徒2人、被害生徒3人も県外出身者で、同じ「下宿」で生活している中でいじめが発生した。

他にもある。
神奈川県相模原市立相原中学校で、柔道場経営者である外部指導員が学区外の柔道部員を自宅に合宿させて、指導者達の暴力やわいせつが問題となった。
〔相模原・相原中柔道部 学外で委託館長暴力 指導丸投げ〕2013/10/27毎日新聞
http://www.kanaloco.jp/article/69738
〔柔道の名門!? 相原中学柔道部“体罰”報道をめぐって〕2013/10/22JanJanBlog
http://shidou-life.net/jyudou1.html
〔相原中柔道部の外部指導者による体罰問題 閉ざされた空間、温床に/神奈川〕
2014/01/13神奈川新聞
http://www.kanaloco.jp/article/69738

相原中学校は、「相原中学柔道部」と標榜しながらも学校に柔道場は無く、部員たちは指導者の柔道場で練習していた。
この柔道部は2009年にも、指導者による暴力で生徒が鼓膜を破るけがをしている。
(東京新聞2013年10月23日付 「柔道外部指導員が辞意 相模原・相原中部員平手打ちで」)
ここもまた全国大会常連出場強豪校で、「名義貸し」の典型例である。

「名義貸し」で一番問題なのは、まだ12歳から15歳の部員が親元を離れて、「学校の目も、親の目も届かない場所で生活をしている」ことだ。
私立ならば部員たちを合宿所で生活させていたとしても、そこは学校の管理下に置かれるし、責任の所在もはっきりしている。
しかし公立の場合、合宿所の生徒たちの保護は監督個人に丸投げされ、そのため不祥事があちこちで発生している。にもかかわらず、試合の結果さえ良ければ、子どもたちを守るべき学校も教育委員会もそして保護者さえも、この異常な実態を黙認してしまっている。

学校も教育委員会も、この実態を知らないわけがない。
なによりも同じ親として、12歳の子どもを「学校の目がまったく届かない」「大人の目も満足に行き届かない」「責任の所在もあやふや」な閉鎖空間に投げ込む保護者の心情が理解できない。
我が子が酷い暴力を受けようが、上級生から異常ないじめを受けようが、どんな大人に成長しようが、全国大会で活躍さえしてくれれば、全てに目をつぶるのだろうか?
我が子が取り返しのつかない事故の犠牲者になってしまうかもしれないとは、考えないのだろうか?

2017年1月14日




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