選手の頭蓋骨内で何が起きたか

2017年1月9日付ニューヨークタイムス紙に「選手の頭蓋骨内で何が起きたか」が掲載された。
https://www.nytimes.com/interactive/2017/01/09/sports/football/what-happened-within-this-players-skull-football-concussions.html?_r=0
脳しんとうを起こした時、脳の中がどうなっているかに関する最新の情報である。
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選手の頭蓋骨内で何が起きたか

(当会注:原文に映像あり)

数年前、NFLの81番選手が頭部に衝撃を受けた。それは大学やNFLのフットボールで数多く発症する脳しんとうの1件であるが、その衝撃がユニークであったのは選手が運動センサー付きのマウスガードを使用していたことである。
衝撃の数ミリ秒後に選手の脳内で起きたことに関して、より詳細で正確な情報を研究者たちはセンサーから得ることができた。

彼の脳に何が起きたか
(当会注:原文の映像を参照のこと)
一般に共通して信じられていることとして、人の頭部(またはヘルメット)が何か(エアバッグ、壁、別の人等)と接触すると、脳は卵殻内の卵黄のように頭蓋内でバウンドし、脳の表層、灰白質にアザが残る。ただ現在は多くの科学者や医学専門家が、この理解では不完全だと考えている。確かに頭蓋内には何らかの動きがある、しかし脳しんとうによる真のダメージは、脳のより中心部、いわゆる白質において、衝撃のあと神経繊維が引っ張られたりねじれたりして起きる。食べ物の例を使うと、卵ではなくゼリーを考えでほしい。皿に乗せたゼリーを強く揺するとどうなるか。ゼリーが伸びたり捩れたりするのと同じことが脳全体の神経経路で起きているのだ。
衝撃に対する脳の反応を更に良く追跡するために、複数の研究所の科学者たちが様々なメカニズムを研究している。そのうちの幾つかが、冒頭のNFLフットボール事故時に使われていたものと同じく、フットボールのヘルメットに直接接続されたものではない。ヘルメットは頭蓋骨とは別に動くからである。「ヘルメットに装着した装置で測定した力は、脳が受けた力とは完全に一致していない」とボストン大学医学部ロバート・カントゥ臨床神経外科教授は言う。

使われたマウスガードはスタンフォード大学のカマリロ研究室(Cam Lab)で、生物工学者デイビッド・カマリロ(当会注:最下段に彼の講演サイトを紹介)とそのチームが開発した。カマリロ等は最もダメージが大きい衝撃は、上記の例のように頭部が左右方向に素早く動く、または斜めからの打撃で頭が激しく回転あるいは捻れる場合だと推定している。「脳の神経経路はすべて左右に走っており、前後方向ではない」とカマリロ氏は脳の右脳・左脳を接続する経路(当会注:脳梁)に関連して述べている。「そのため、衝撃を受けた方向によって脳に異なる影響が出る。フットボールではフェイスマスクを使用しているため、ねじれが更に強くなる。」

これらの新事実によると、フットボール用ヘルメットの現在のデザインでは脳しんとうやCTE(慢性外傷性脳症)などの長期的な脳疾患から選手を守れない、という示唆が強く出ている。しかしカマリロ等は、頭部への衝撃による脳内部の動きについて、更に多くのデータが入手され理解されればヘルメットのデザインは改善する、と希望をもっている。

しかし、このような脳疾患は、強度の震とう性衝撃のみが原因となって起こるだけではなく、弱い衝撃が複数回あり、その累積でも起こると科学者は一般に信じている。上の画像は、日常のフットボールでよく見るスクリメージライン上の戦いであるが、前述の震とう性衝撃を受けたレシーバーほど悪い状態には見えない。しかし1回の試合から得たデータによると、一人のオフェンシブ・ラインマン(大学生)が頭を弱く打たれた衝撃回数は62回であった。

1回の試合中に頭部は62回衝撃を受ける

【グラフ】10回の打撃のG (各線は打撃1回を表す)
【グラフ】10回の打撃のG (各線は打撃1回を表す)
このグラフでは、1回の試合中にオフェンシブ・ラインマンが頭を打った62回のうち10回のGの力を示している。Gの平均値は25.8でこの値はオフェンシブ・ラインマンが時速30マイル(当会注:時速48km)で車を壁に衝突させたときの値にほぼ等しい。

忘れてはいけないのが、ここで示したGのデータは、オフェンシブ・ラインマンが1試合中に受けた衝撃62回のうち10回のみの値である。この程度の強さで頭を打たれることは、大学生やNFLのフットボール選手たちが試合や練習に参加した間に合計して、何千回とは行かなくとも何百回という頻度で起こるだろう。ヘルメットのデザイン、また自動車の安全デザインが、強度の衝撃とそれほど強くはない衝撃による脳疾患から人を守るためには、もう少し時間がかかるだろう。

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参考文献:

MR. David Camarillo講演”Why helmets don’t prevent concussions — and what might

https://www.ted.com/talks/david_camarillo_why_helmets_don_t_prevent_concussions_and_what_might

注:映像下のSubtitlesをクリックしてJapaneseを選択すると、映像に和訳のテロップが流れる。

2017年1月27日




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