柔道部顧問に「暴行罪」で有罪判決―手加減ということについて

柔道部員に暴力を振るってケガをさせたとして、暴行罪で7月20日に略式起訴された大分県立中津東高校柔道部元顧問に対し、中津簡易裁判所は即日元顧問に罰金10万円の略式命令を下した。
https://mainichi.jp/articles/20170721/ddl/k44/040/353000c
【男子生徒暴行の教師に略式命令 中津簡裁/大分】毎日新聞2017年7月21日
http://www.e-obs.com/news/detail.php?id=07200038158&day=20170720
【中津東の柔道部の顧問を暴行罪で略式命令】OBS大分放送2017年7月20日
やっと学校の中にも、社会の常識が届くようになったかと感無量である。
(事件詳細等は下記参照 http://judojiko.net/news/2556.html

まずは一歩前進であるが、大きな疑問点がある。
警察は傷害容疑で書類送検したのに、検察は暴行罪に罪名変更して立件している。
顧問は被害生徒に甚大なケガを負わせたのであるから、当然「傷害罪」に問われるべきだ。
「暴行罪」は、「暴行を加えたがケガを負わせていない場合」である。
「傷害罪」は「暴行を加えてケガを負わせた場合」に成立する。
当然傷害罪の方が刑は重く、暴行罪が「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」であるのに対し、傷害罪は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」となる。
被害生徒は顧問の暴行で、脳脊髄液減少症や中心性頸髄損傷という重篤な病状を発症し、2回の入院と手術を受けている。これがなぜ「傷害罪」にならないのか。
大分地検は「証拠に基づき判断した」とコメントしているが、被害生徒の重篤なケガと後遺症は「証拠」そのものではないか!

これまで全国の柔道部で生徒が顧問教諭による暴力で命を失ったり重篤な障害を負ったりしても、顧問が刑事罰に問われることはまず無かった。
しかし今回検察が起訴したのは、顧問が「柔道技」ではなく「拳を使って殴った」からだと私どもは見ている。柔道部顧問が傷害罪で書類送検された横浜市立奈良中学校の時のように、「柔道場で柔道着を着て柔道技を使っていたら、どこまでが柔道でどこからが犯罪か線が引けない」との地検の理由が通らなかったのだ。

では、顧問が柔道技を使っていれば、生徒を死なせても重度障害者にしても起訴できないのか。
柔道の前進である柔術はもともとは武器なしで人を殺めるために生み出された技であるから、「手加減」をしなければ、人を殺せるのだ。
相撲巡業で力士が地元の子どもたちと対戦しているニュースを思い出してほしい。彼らは子どもたちがケガをしないようにちゃんと手加減して優しく投げているではないか。時には力士が子どもに投げられたりしていることもある。
生まれて初めて赤ちゃんを抱く時誰もが、赤ちゃんを落とさない強さ、かつ赤ちゃんが快適な力加減で抱くことができる。
「どのくらいの手加減をすればいいか」は、教わらなくても「本能」でわかるのだ。
有段者の顧問が手加減せずに、生徒が障害者になるまで投げ続ける、生徒が死ぬまで投げ続けるのは、日本だけである。
これを異常な行為と言わずして何と表現すればいいのだろう。

2017年7月22日




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