加茂暁星高校野球部で発生した死亡事故を問う

先月、7月21日新潟県加茂市の加茂暁星高校で、男子野球部員と一緒に野球場から学校まで、3.5㎞の道のりを25分かけて走って戻った女子マネージャーが、学校の玄関前で倒れ、意識不明の重体となった。
その後、救急搬送され治療を受けていたが、2週間後の8月5日に亡くなった。
【女子マネージャー死亡、「呼吸」誤解? AED使っていれば】2017年8月17日付けlivedoorニュース
http://news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/13470956/

この事故はなぜ、死亡に至ったのか

1.加茂暁星高校とは
野球とサッカーの「スポーツクラス」を設けている。野球部員65名中15名が県外生であり、県内生にも通学困難と思われる生徒が1/3以上いるため、寮も完備されている。
また、当高校には看護科があり、AEDも3か所に設置されていた。
http://www.gyosei.ac.jp/course/sport/

2.野球部の指導体制
事故当日は、4名の野球部指導者全員で指導に当たっていていたが、4名皆ワゴン車に乗って学校へ戻ったのかは不明である。
http://kgyosei-baseball.jp/custom.html

3 事故発生時の状況
事故当日の加茂市の日没時刻は19時02分、月の出は翌02時12分なので、ランニング開始時の19時30分頃はかなり暗くなっていた。その上通過した道に街路灯が少なく、森の中から田んぼ道を抜ける人気(ひとけ)のないコースだった。
当日の加茂市の最高気温は35℃であり、夜も「熱帯夜」と称される気温であった。また、新潟市の18時の湿度は63%だが、21時には78%と上がっている。つまり、日没後とはいえ高温多湿で運動には適さない状況であった。

4.女子マネージャーの死因とランニングとの因果関係
女子マネージャーは普段、学校から野球場を行き来する際は、用具などを積み込むマイクロバスに乗っていた。この日はけがをした部員がバスに乗るため、監督が「マネージャーはマイペースで走って帰るように」と指示して自分はバスで戻っていた。
女子マネージャーの死亡原因は低酸素脳症と報道されていたが、続報では心室細動を発症していたことがわかった。
心室細動は、①心筋梗塞や心不全などの心臓病の進行にともなって起こる場合、②先天性の病気に起因する場合、③心臓震盪(外部からの胸部への衝撃)で発症する場合④血液中のミネラルバランスが崩れて起きる場合などがある。
本症例は、上記①②③の要因が報告されていないことや、高温多湿な状況下で急に走り出したことから、血液中のミネラルバランスが崩れて発症した可能性が高い。
死因とランニングとの因果関係は、今後の第三者調査委員会の検証に委ねたい。

5.監督らの救護義務違反の可能性
4人の指導担当が救命救急講習を受講していたか否かは分からない。しかし、マネージャーが倒れた直後に駆けつけた監督は「呼吸は弱いけれどある」と判断して、救急車が来るまでの間、AEDを使用しなかった。
監督ら4人に救急救命の知識が無かったとしても、同校には看護科があり、この科の教師が居合わせた可能性もある。
また、AEDが3台も設置されていれば、その重要性や、どの様な事態で使用すべきかを、学校内で周知されているはずである。もし、それを怠っていたとすれば、安全管理義務の意識が低いと言わざるを得ない。
当該生徒の周りにいる者が右往左往しているうちに、救命のための貴重な5分が経過してしまい、蘇生機会を失ってしまったといわざるを得ない。
AEDの処置が1分遅れる毎に7%〜10%の蘇生機会が失われる。↓
https://www.secom.co.jp/sp/business/medical/pop_aed.html
本件は、自己判断に頼らず即座にAEDを使用していれば、蘇生できたかもしれない。

救命救急の知識を広めるためには、下記の横浜市の中学生への取り組みの様に学校の授業で、生徒にも教えることが、将来に向けての改善策になると考える。
http://www.nissho-jyouhou.jp/nisshohp_img/jirei/pdf-h21/h21_chiiki02_kanagawa-kouhoku.pdf

注:文科省が2013年に出した「学校体育実技指導資料」の「柔道の手引き」の「資料1柔道の安全な実施に向けて」174頁に以下の文が掲載されている。

「各学校においては、AEDの使用方法を含む心肺蘇生法実技講習を実施するなど、教職員の事故への対応能力の向上を図り、教職員が生徒の負傷の程度に応じて、的確な判断の下に、応急手当てを行うことができる体制を確立しておくことが大切です」

2017年8月27日




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