元NFL選手アーロン・ヘルナンデスは重度のCTE(慢性外傷性脳症)だった

元NFL選手アーロン・ヘルナンデスは重度のCTE(慢性外傷性脳症)だった
 ワシントンポスト紙2017年11月9日付
“Aaron Hernandez suffered from most severe CTE ever found in a person his age”

米ナショナルフットボールリーグ(NFL)ペイトリオッツの元選手、アーロン・ヘルナンデスは、これまでに報告されている同年代患者の中で最も重度な慢性外傷性脳症(CTE)を患っており、意思決定、判断、認知に大きな影響を及ぼす損傷が判明した。ボストン大学の研究者が木曜日に発表した。

ボストン大学CTEセンターは、慢性外傷性脳症(CTE)疾患を10年以上研究している。CTEセンター所長のアン・マッキー医師は、「へルナンデスの脳は死亡直後で保存状態が良く、27歳の疾患を調べる貴重な機会である。研究に大きな貢献をしてくれる。」と語った。

ヘルナンデスはペイトリオッツの主力タイトエンド(TE)であった。2013年にオディン・ロイド殺人罪で終身刑の判決を受け、マサチューセッツ刑務所に服役中だったが、今年4月にシーツで首を吊って自殺した。

ヘルナンデスは悪評高い選手であったが、CTEがステージ3(最重症はステージ4)と判明して、スポーツ最大の健康リスクを結びつける診断結果となった。「46歳以下の脳では初めて見る(非常に悪い)進行状態だった」とマッキー医師は述べている。このステージのCTEは、フットボールの脳しんとう問題、即ちプロ選手が早期リタイアを考える、息子たちがアメリカンフットボールを始めてよいか親が迷う、などの課題に新たな指標を与え、懸念を高めるだろう。

CTEセンターはヘルナンデスの年齢の脳の提供を受けることが少ないため、マッキー医師は「彼の脳があれだけの量のアメフトを行った27歳の脳を代表する例であるとは断言できない」と語った。しかし進行したCTEは憂慮すべきことだと述べた。

「この年齢層では彼の脳は最も深刻な症状を示している。」とマッキー医師は語った。「若い選手たちに疾患の加速があるのかどうか懸念される。選手が以前より攻撃的なプレーをするためか、または若年からプレーを開始しているためかは私たちにはわからない。しかしこの症例を見ると、病変による破壊が若者にあることがわかる。」

マッキー医師は木曜日の会議で、ヘルナンデスの脳とCTEの無い脳サンプルをスライドで比較した。健康な脳サンプルが白色に対し、ヘルナンデスの脳はタウ・タンパク質に関連した黒いスポットや脳の萎縮が見られた。またヘルナンデスの脳は、よい行動の選択や意思決定に影響を与える前頭葉に大きなダメージを受けていた。新しいスライドがプロジェクターで映されると、医師や出席者らが息を飲む場面もあった。

「病理によって行動を説明することはできない。」とマッキー医師は述べた。「しかし我々の経験では、CTEを発症した人、特にこのステージのCTEである場合、衝動のコントロール、意思決定、また攻撃、感情の移り変わり、怒りなどを制御することが難しくなる。」

ヘルナンデスには特定の脳疾患を発症しやすい遺伝子マーカーがあり、それがCTEの速い進行に影響したかもしれない、とマッキー医師は述べた。

ヘルナンデスの脳は、年齢と検死医の熟達した扱いで良好な状態にあり、CTEの解明や新たな理解に今後つながる可能性がある。例えば、炎症とタウ・タンパクとの相互作用を蛍光染色によって更に研究できるであろう。

「私たちには滅多にない機会であり、この疾患の科学的理解が進む。提供して下さったご家族に心から感謝している。」とマッキー医師は語った。

ボストン大学の研究者達によると、元NFL選手100人以上にCTEの発症が見つかり、そのうち片手で数えられる人数が自殺していた。検死医は4月にヘルナンデスの脳(1573グラム)を大学の研究室に届けた。外観は典型的な脳に見え、病変、打撲、異常はなかっただが脳を切ると驚くべき損傷があった。

脳室は、脳の萎縮により拡張していた。硬いはずの膜は薄くゼリー状になっていて、脳の一部には異常な大きさの穴があった。
記憶に関わる主要な部位である海馬が萎縮していた。やはり記憶に関わるが脳弓が萎縮していた。問題解決、判断、衝撃制御、社会性を担う前頭葉にはタウ・タンパク質の跡があった。感情調節、情動行動、恐怖、不安を生み出す扁桃が大きく変化していた。
視覚と聴覚を処理する側頭葉は大きく損傷していた。

総合すると、「この年齢の人としては非常に異常な所見が見られた」とマッキー医師は述べた。
「このような状態は今まで研究した468体の脳で一度も見たことがない。例外として、20歳ほど年齢が高い人達の脳では見たことがあったが。」

2012年のスーパーボールでトム・ブラッドレーからタッチダウンパスを受けた名選手ヘルナンデスの破局的・悲劇的な破綻に対して、脳内の重大な病変はもう一つ見方を与えることができる。
ヘルナンデスはコネティカット州でアメリカンフットボールのスターとして成長したが、父親が手術中に突然死亡した15歳頃から悪い仲間に入った。進学したフロリダ大学では、ドラッグや暴力などフィールド外でのトラブルが付きまとったが、スター選手であった。このような問題のためNFLドラフトではヘルナンデスを考慮しないチームもあったが、ペイトリオッツが第4巡で指名した。

ヘルナンデスは2010年に指名されたロブ・グロンコウスキーとタンデムを組み、ペイトリオッツはヘルナンデスがまっとうになったと確信した。2012年のシーズン後、4000万ドルの7年契約を結んだ。しかし数か月後の2013年夏、婚約者の妹の恋人であるオディオン・ロイド氏が殺害された。遺体はノース・アトロボロのヘルナンデス邸から1マイル離れた砂利場にあった。2015年に陪審員はヘルナンデスに対し殺人の有罪判決を下した。

ダニエル・ドアブレウとサフィロ・フルタドの二人を2012年にボストンのクラブでの小競り合いのあと殺害した事件の裁判で、陪審員から無罪判決が出た4日後、ヘルナンデスは服役中の刑務所で首吊り自殺した。

ヘルナンデスの弁護士は9月にペイトリオッツに対し、頭部への衝撃が脳損傷に繋がることを知りながら保護しなかったと連邦裁判所に訴訟を起こした。

木曜日の発表と同時期に、NFLの調査による2015年と2016年シーズン中に起きた459件の脳震盪のビデオ・レビューが発表された。プレシーズンからプレイオフまで全ての試合が含まれる。

NFLはルールの変更、脳しんとうの選手を休ませる方針、技術革新などでアメフトを安全なスポーツにしょうと努力している。しかし脳損傷は、アメフト選手が他のプレイヤーや地面に衝突し頭部を強打したあと、脳が加速または減速して起きる。どのようなヘルメットもこれを防ぐことはできない。マッキー医師は言った。「なぜならば、頭蓋骨の中で起きるからだ。アメリカンフットボールの本質的な問題だ。」

当会注:原文には画像が挿入されているので、画像はワシントンポスト紙のwebで確認していただきたい。
原文:ワシントンポスト紙2017年11月9日付を和訳
“Aaron Hernandez suffered from most severe CTE ever found in a person his age”
https://www.washingtonpost.com/sports/aaron-hernandez-suffered-from-most-severe-cte-ever-found-in-a-person-his-age/2017/11/09/fa7cd204-c57b-11e7-afe9-4f60b5a6c4a0_story.html?utm_term=.6a14dc343789

2017年12月12日




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