大切なのは指導の振り返り

スポーツ指導で事故を起こした先生は言う。「つい熱が入りすぎてしまった」と。
それは言い訳でしかない。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15047402.html

部活動で、自分の経験したことのない種目の顧問になってしまう先生がいる。
柔道などのコンタクトスポーツは特に、「事故が起きないか怖い」と思いながら、外部指導者の助けを受けて指導にあたる。
そういう慎重さがある場合はまだいい。
事故が起こりうるのは、その種目が専門の先生である。
自分の専門の種目だからと自信を持って教える。
自分が厳しく指導されてきたそのままの方法を、子どもたちにあてはめる。
自分が味わった充実感を子どもたちにも味わわせてあげたい。もっともっとうまくなれるようにしてあげたいという、親切かつおせっかいな気持ちを押し付けてくる。

よく考えてほしい。
あなたの受けた指導方法は、本当にベストなものだったのか。指導を受ける側のことを思いやったものだったのか。勝利至上主義に走っていたのではないのか。自分が何事もなく生きてこられたのは、奇跡だったのではないのか。
あなたの子ども時代と、今の時代は違う。子どもたちが外で十分に体を動かす機会が奪われ、部屋の中でのゲームやスマホがメインの遊びである。当たり前の運動機能を十分備えていない子どもがたくさんいるのだ。
そんな子どもも入学後、「初心者大歓迎!」の先輩の口説き文句につられて、入部してくる。蹲踞の姿勢ができない子どもも多い、と嘆かれ始めたのはかなり前のことになる。前回りができない子どもが柔道部に入ってくることだってあるのだ。

子どもたちがスポーツをする目的もみな違う。プロを目指す子。勝つことを目標としている子。仲間と楽しみたい子。経験のないことに挑戦しようとする子。体を鍛えたい子……。
柔道では、勝利をめざす指導者の下、実力者の部員の相手をさせられ、命を失った初心者もいる。
理想的なのは、個々の能力・体力・性格をよく見て、各々に見合った指導をすることである。だがこれは、指導で一番難しい部分でもある。

教育委員会でスポーツの指導経験のある先生と話すと、よく聞かれる言葉がある。
「自分は子どもたちに、スポーツの楽しさを知ってもらいたい一心で教えてきたが、振り返れば、事故が起きていたかもしれない、という場面はある」と。
振り返り自省できる先生はいい。これからはきっとより良き指導ができるだろう。
熱が入る前に、自分をセーブする。勝たせること以前に、子どもたちの安全を考える。振り返り振り返り、指導方法の見直しをしてゆく。そんな柔軟性を持った先生が増えることを願う。
(2021年9月21日)




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