せめて誰かのために—我が子の犠牲を生かしたい

事故や事件で大切な人が被害に遭った時、ニュース等でどの家族も、判で押したように同じ言葉を語っているのをご存じだろうか。
「二度と同じことが起きないように」―誰もがそう訴えている。
本当に言いたいのは、「被害者を生き返らせてほしい」「元通りにしてほしい」という言葉である。それがかなわないことが分かっているから、せめてその犠牲を生かしたい。「もう二度と~」という言葉になるのだ。

 2003(平成15)年10月、須賀川市、須賀川一中の柔道部の練習中に起きた事故で、中学1年生の車谷(くるまたに)侑子さんは、遷延性意識障害の重い後遺症を負った。
2018年9月12日に亡くなるまで、母親の晴美さんは、15年間、侑子さんの隣で寝起きして介護を続けてきた。それから3年経つ。

「若者、指導者に経験伝える 須賀川一中柔道部、侑子さん死去3年」
https://news.yahoo.co.jp/articles/2c035898aff952ab6cf77fbc2df3043218ddb384

過去に柔道事故で頭部をけがした青年がいる。彼は、「学生時代に柔道をしていた時に頭を強打したが、『須賀川一中の事故みたいになったら大変だ』と周囲が迅速な対応をしてくれたおかげで大事に至らなかった」「僕は侑子さんのおかげで普通の生活が送れている。侑子さんに感謝している」 と、晴美さんに語った。
意識も戻らず無言のまま頑張って生き続けた侑子さんが、一人の青年を救ったのである。

侑子さんの事故が公表されていたために、助かった人がいることを知り、晴美さんと、侑子さんの父、政恭さんは、伝えることの必要性を強く感じた。二人は、スポーツでの同じような事故を防ぐため、若者や指導者らにこれまでの経験を伝え始めている。

 事故が起きて世に知られても、年月が経つと、それを知らない世代が指導にあたり、子育てをし、その子どもたちは無防備なまま、また同じ危険にさらされることになる。
新しい命が次々と生まれ育つ以上、永遠に伝え続けてゆかなければならないのだ。
侑子さんのご両親のような考えを持つ、さまざまな事故・事件被害者の親御さん達の努力で、これまでにもきっと多くの子どもたちが救われてきたに違いない。
2021年9月24日




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