柔道界の裏切り その2

まだ皆さんの記憶にあるだろうか。2013年に発覚した、女子柔道強化選手らに対する監督の暴力問題のことは。
https://www.nikkansports.com/sports/news/p-sp-tp0-20130130-1078499.html
全柔連は、第三者委員会の提言やIOCからの改善勧告をもとに、「改革・改善実行プロジェクト」を設置し「暴力の根絶宣言」を出した。その改革・改善項目の中で、指導者資格制度と資格剥奪制度の確立、外部第三者の執行部中枢への登用、コンプライアンス委員会の設置、相談・通報窓口の設置などを提示している。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1270b2cff2ff0cc976e481b39a1766734c0d4bb5?page=1
「中2が失神『暴力指導やまない』日本柔道の深刻」
2014年、福岡市の道場で、当時中学2年生だった少年を、指導者が「見せしめのために」片羽絞めで2度絞め落とすという事件が起きた。少年は、失神のショックで柔道ができなくなった。その時相談した福岡県柔道協会が適切な対応をしてくれなかったため、少年の父親―石阪正雄氏は、上記の全柔連内部通報制度(コンプライアンスホットライン)に通報した。しかし、全柔連は、当事者の聞き取りを十分行わないまま、福岡柔道協会の報告のみにより「問題なし」と判断した。
この事例は、上記の「改革・改善項目」「暴力の根絶宣言」が発表された後に起きている。つまり、何も改善されていないということだ。
このように内部通報制度が本来の機能を果たしていないため、今後の柔道界に危機感を覚えた石阪氏は、全柔連を相手に裁判を起こした。
2月9日に和解が成立し、全柔連は次の義務を負った。
「和解条項3 被告は,コンプライアンスホットラインの通報を受けた案件について,通報の経緯等に配慮した適切な対応をとるよう努めるとともに,通報者と対象者の言い分が異なる場合には,双方の言い分を十分に聴取するなど,通報者に対して適切な事情聴取,情報提供等を行うよう努める。」

今年2月に発行された、柔道の安全指導(2020年 第5版)準拠版「楽しく安全に柔道しようよ」の冒頭のあいさつで、山下泰裕会長は少年少女たちに述べている。「~事故の原因はほぼわかっています」と。そう、私達も知っている。ほとんどが指導者の不適切な指導によるものであることを。
昨年起きた宝塚市立中学校柔道部の顧問による暴力事件は、日本中に知れ渡った。
暴力は根絶などされず、相変わらず各地で発生し続けている。時に大きく報道された事例が見えてくるだけである。

全柔連は、宝塚市の事件を受けて、昨年10月、山下会長の名のもとに2度目の「暴力行為根絶宣言」を出した。b992e1754644600f4e51cc4a8437a2b6.pdf (judo.or.jp)
この中で会長は、柔道指導者のみならず柔道を行うものすべての者に、「身体的暴力と共に、威圧や脅迫、暴言等の精神的な暴力をも黙認しないこと」を求めている。
しかし黙認したのは会長自身であった。https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/525667
全柔連の前事務局長のパワハラ疑惑が明らかになったのは、今年の2月下旬である。
だが、この疑惑が浮上したのは昨年3月である。今年になって報道機関が取り上げるまで、1年近くも隠されていたのだ。
昨年11月、コンプライアンス委員会から山下会長に、前事務局長によるパワハラ行為の報告があった。けれど、会長は処分も公表もせずにこの問題を放置していた。

私達は、連盟から宣言が出されるたび、様々な通知や通達が出されるたび、今度こそ柔道界は変わるのかと期待し裏切られてきた。
会長をはじめ全柔連(正確に言えば、その中の一部の者)は、柔道事故・事件の被害者だけでなく、安全に留意しながら懸命に柔道を教える指導者の方々や、柔道家を信じて子どもを託している親、ひたむきに柔道を学ぶ子どもたち、さらには柔道が国技であることを誇りに思う国民全員を、たびたび裏切ってきたことになる。
柔道人口が激減していくのは当然である。

石阪氏は述べている。「宣言するだけじゃ何も変わらない。改善のための具体案を示してほしい」と。
そう。言葉だけでは何一つ変わらない。具体案を示し、その通り実行しなければ。
その前に全柔連は、組織としての自浄システムを確立すべきであろう。

参考資料)福岡絞め落とし指導者に対する全柔連の処分手順に関する裁判の和解条項

1 、被告は,コンプライアンスホットラインの通報を受けた案件について,加盟団体に調査,処分を委ねる場合の具体的な基奉を定め,本和解成立の日から1年以内に関係規則を改正する。同改正に当たり,被告は,通報の経緯等に配慮するとともに,中立性・公正性が担保されるよう配慮するものとする。
2、 被告は,柔道において暴力事件(意識を喪失させることを目的として絞め技をかけるなど,指導に名を借りた暴力を含む。)が起こることのないように,柔道指導者をはじめとする全ての柔道関係者に指針を示すなどして注意喚起し,暴力の根絶に努める。
3 、被告は,コンプライアンスホットラインの通報を受けた案件について,通報の経緯等に配慮した適切な対応をとるよう努めるとともに,通報者と対象者の言い分が異なる場合には,双方の言い分を十分に聴取するなど,通報者に対して適切な事情聴取,情報提供等を行うよう努める。
4 、被告は,第1項から第3項までの条項の内容を踏まえた取組み及び第1項の規定により改正した関連規定について,ウェブサイトヘの掲載等の適切な方法により公開するものとする。
5、 原告らは,その余の請求をいずれも放棄する。
6、 原告らと被告は,原告らと被告の間には,本和解条項に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。
7、 訴訟費用は各自の負担とする。
以上
 




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