熱中症

熱中症は戸外のスポーツだけで発症すると考えるのは間違いで、室内の柔道で多くの子ども達が熱中症で亡くなっている。

熱中症の死亡率

中高の主要部活動における熱中症の死亡率[1994~2013年度]内田良名古屋大准教授提供

 

柔道での熱中症事故事例にみる共通点

  • 水分を取らないでの練習
  • 夏前でも急に暑くなった日(事故が集中するのは5~8月)
  • 定期試験の終了直後(定期試験前1週間は部活休止で、試験後は寝不足であることが多い。試験終了直後に、突然普段よりもさらに長時間の練習を始める)
  • 夏休みに入った直後(早朝から夜遅くまでの練習)
  • 合宿中(具合が悪くなっても家族は気づけない。教師の受診許可が必要。)
  • 7割が肥満(内田良准教授資料)
    http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryouchida/20150821-00048685/

つまり、こういう時期と状況に対して対策を講じておけば、事故は防げるのではないか。

病院に担ぎ込んでも救命できないほどの熱射病を発症するまでには、周囲が気づく色々なシグナルを被害者は発信している。
生肉に一旦火を通すと、どんなに冷ましてももう元の生肉には戻らない。
人間の内臓もこれと同じで、強い熱に曝され続けると多臓器不全をおこす。こうなると病院に担ぎ込んでも助けることは不可能となってしまう。
WBGT 注1指針をしっかり活用して、子ども達を守って欲しい。
労働現場では季節に合った服装の上に作業着を着用した場合、気温を3度高く設定してWBGTを測定している。
厚い生地でできた柔道着を着る柔道も、実際の気温より3度高く設定して測定すべきである。
女子は柔道着の下に、さらにもう一枚Tシャツを着用している。
窓や扉を閉めての練習は危険だ。
生徒達の体から発せられる熱と汗で、室内の気温だけでなく湿度がどれだけ上がっているか、指導者はしっかり乾湿計の目盛りに注意して欲しい。

注1:WBGT
暑さ指数のことで、Wet-Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略称。

WBGTと気温、湿度の関係

WBGTと気温、湿度の関係

 

「見守りっち」(携帯型熱中症計 千円程度で購入可)

温度や湿度表示の上部に、WBGTの「ほぼ安全」「注意」「警戒」「厳重警戒」「危険」の5段階表示が点灯し、だいたいの見当をつけるのに手軽で便利。

携帯型熱中症計

 

 

【生徒自身が脱水に早く気づける簡単な方法】

  • 自分の爪が白くなるまで強く押す。押した手を離して3秒以内に元のピンク色に戻らなかったら脱水を疑う。
  • 手の甲の皮膚を引っ張って、3秒以内に元の状態に戻らなかったら脱水を疑う。
  • 両方の手を握り合って、手が冷たいと感じたら脱水を疑う(体に体液が廻りにくくなっている)。

【生徒自身が熱中症に早く気づける簡単な方法】

  • 自分のおしっこの色を見る
    りんごジュース(混濁していない透明な方)のような色……正常
    オレンジジュースのような色……水分不足だから、経口補水液か塩分0.2%を含んだ水を飲む。
    コカコーラのような色……危険! 至急病院へ。自力で水が飲めない時は救急車を呼ぶ。
  • 検温を行う
    最近は体に近づけると0.5秒で検温できる「でこピッと」という商品が3千円台で販売されている。検温係が練習開始時はもちろんのこと、定時に部員の周りを回ってチェックするとよい。そうすれば一人ひとりがわざわざ検温に時間を割くこともない。
    37度以上だったら即練習は中止させ、体温計できちんと体温を測り直す。と同時に経口補水液注2で充分に水分補給と、動脈が体表に近い脇の下や股の内側を冷やす。
    37.5度以上だと直腸温度は38.5度以上になっているので危険。38度以上だったら、意識があっても救急車を呼ぶ。
  • 柔道場の入口に体重計と記録用紙(「重篤事故を防ぐ具体的な方法」を参照)を置き、柔道場に入る時に柔道着を着たまま体重を量る。予め各自の柔道着(約1kg~3kg)を計量しておいて、柔道着分を引いて記録する。その後1時間毎に再度計量して、例えば60kgの体重だったのが1kg以上減少していたら至急経口補水液で充分な水分補給をしないと熱中症である(体重の2%以上減少は危険)。
    水分不足では運動能力や集中力が低下し、怪我が発生しやすくなる。脳も縮むので急性硬膜下血腫も発症しやすくなる。水分不足で心配なのは熱中症だけではない。
    逆に水ばかり摂取して体重が増えていたら、低ナトリウム血症注3(水中毒)でこれも危険である。
    熱中症に気づく簡単な目安であるから、計量は柔道着を脱いで厳密に行なう必要はない。

注2:経口補水液
OS1(オーエスワン 大塚製薬)、アクアソリタ(味の素)が知られている。賞味期限が常温で9か月(OS1)~12か月(アクアソリタ)なので、いざという時にすぐ飲ませられるよう柔道場に経口補水液を常備して欲しい。

注3:低ナトリウム血症(水中毒)
運動中に水だけを過剰摂取すると、虚脱感や疲労感が表れ、ひどくなると頭痛、吐き気などの症状が現れる低ナトリウム血症(水中毒)となる。
汗を舐めるとしょっぱいように、汗をかくと水分と一緒に塩分も体から出ていく。運動をしている時は、0.1~0.2%の食塩も同時に摂取する必要がある。
500mlのスポーツドリンクを同量の水で薄めて1ℓとし、それに塩小さじ1/4を加えるのもお薦めである。

 

事故事例

  • 部活顧問が「水を飲むと疲れる」という体験(低ナトリウム血症)をしたため、柔道部合宿中に給水を禁止した。給水は午前と午後に湯飲み茶碗1杯の黒砂糖入り熱湯のみ。
    他の生徒は隠れて水を補給していたが、被害生徒は主将で真面目な性格のため言いつけを守り、3日目に倒れて死亡した(高校2年男子)。
  • 夏休みに入った3日目の柔道部活動中の夕方、倒れて死亡。
    学期中は昼食のお弁当をきちんと食べて帰ってきていたが、夏休みに入るとお弁当はまったく手をつけられずに腐って戻ってきた。上級生が食べ終わってからしか1年生は食べることができず、横で立って待っていなければならなかった。1年生が食べる前に休憩時間が終了してしまい、亡くなった日もお弁当は腐って戻ってきた。
    柔道場にはウォータージャグと塩飴も置いてあったと学校は説明するが、1年生は手を出すことなどできなかった(高校1年男子)。

【参考資料】




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