脳脊髄液減少症(のうせきずいえきげんしょうしょう)

ほとんどの柔道指導者は、脳脊髄液減少症という症例があることをご存知ないと思う。しかし、柔道で脳脊髄液減少症が多く発症しているのではないかと強く危惧している。

脳や脊髄は、その周囲を髄液で満たされて守られている。しかし、畳に叩きつけられるなどの衝撃で髄液を包んでいる硬膜が破損すると、髄液が漏れ出して脳が下がり、頭蓋骨底部と擦れたり、血管や神経が引っ張られて、強い頭痛、倦怠感、めまい、睡眠障害など種々の深刻な症状が出る。

この症例のやっかいなところは、事故直後に「すぐに症状が現れない」ことにある。髄液の漏れはほんの少しずつのため、症状がはっきり出てくるのに数日かかったりする。さらにやっかいなのは、発症原因(事故)から発症まで日数が経つので、柔道が原因だと本人も周囲も気づき難いことである。

そのために「病名にたどり着けない」ケースも多い。発症原因に気づかず、症状だけ訴えてあちこちの病院に行っても診断がつかず、「なまけ病」(体を起こしているとつらくなり、体を横にしていると少しは楽になるため)と疑われたりする。当会へのご相談メールに書いてあった症状から脳脊髄液減少症の専門医をご紹介したところ、脳脊髄液減少症と判明したケースもある。

柔道で後頭部を強打したり体幹部に強い衝撃を受けた後、色々な症状が強くなっていった場合には、髄液が漏れ出しているのではないかと疑って欲しい。
一概には言えないが、キーワードの一つに「体を横にしているとわりと楽だが、体を起こしていると頭痛、吐き気、めまいに襲われて起きていられない」症状がある。体を横にしていると髄液が漏れにくく、体を起こしていると髄液が漏れやすくなり、髄液が減って脳が下がるからである。

脳脊髄液減少症の疑いのあるときには、脳脊髄液減少症が診断できる脳神経外科を受診していただきたい。一刻も早く病名にたどり着いて治療を開始することが、症状の軽減に大きく影響する。

事故事例

  • 中学校の柔道授業で、乱取り中に体格差のある柔道経験者に大外刈りで投げられ、後頭部を強打した。先生はその現場を見ていなかったので、自分から頭を打ったと申告して授業終了後に保健室へ行った。
    受傷後、3か所の病院(脳神経外科→整形外科→整骨院)にかかったが、ずっと体調不良が続いた。
    4か月半経って頭痛が急に悪化し、当会が紹介した病院でやっと脳脊髄液減少症とわかったが、半年近くも病名がわからず、正しい治療ができずに苦しむこととなった。(中学1年男子)

【参考資料】




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