心臓震盪(しんぞうしんとう)

通常、心臓震盪は野球のボールが胸骨付近を直撃した時に発症することが多く、骨が折れるほどの強い力が必要と思っている人がいるがそれは間違いである。心臓が収縮時のある特別なタイミングに外部から衝撃を受けると、心臓が正常に拍動できずに痙攣を起こしたような心室細動を発症して、ポンプの働きをストップしてしまうのが心臓震盪である。
まだ体が発達途上で胸骨が柔らかい18歳以下の子ども達に多く発症しているが、AED(自動体外式除細動器)を発症直後に適切に使用すれば、心臓の拍動を元に戻すことで命を助けられる。しかし、残念ながら柔道でも心臓震盪の死亡事故が発生している。
AED治療が1分遅れるごとに10%ずつ救命率が下がることを忘れてはならない。5分を経過するとたとえ救命できても脳は深刻なダメージを受けるから、「脈が振れない」、「呼びかけに反応しない」、「今まで見たことがない呼吸だ」と感じた時や身体が痙攣を起こしていたら、たとえ呼吸をしているように見えても死線期呼吸注1を疑い、大至急AEDを使用して欲しい。AEDを使う必要がない場合はきちんとAEDが音声で教えてくれるので、恐れず使用すべきである。
柔道では意識を失わせても許される絞め技まであるせいか、柔道をする方々は意識を失うことに無関心過ぎる。絞め技でも意識を失うということは、必ず脳にダメージが生じていることを忘れてはならない。
AEDを取りに行く間も、もう一人が掌で繰り返し胸骨圧迫する心肺蘇生(CPR)をすることや119番通報することを忘れないでいただきたい。

注1:死線期呼吸
呼吸をしているように見えても、死線期呼吸は呼吸停止と同じである。素人には判断は難しいが、意識がなく、いつもと違う呼吸だと感じた時は、AEDに判断を委ねるべきだ。
指導者は、参考資料にあげたASUKAモデルのYouTube版であらかじめ死線期呼吸時の様子を知っておくとよい。

 

事故事例

高校の柔道の授業で試合を行ない、被害生徒は柔道部員と対戦した。相手が掛けた小外刈りで尻もちを着いて倒れた後、袈裟固めを掛けられた時に、相手の脇腹が被害生徒の胸を押し潰し心臓震盪を発症した。校門の目の前に消防署があったが救急要請が遅れ、救急車が到着したのは事故発生から10分以上経過しており、すでに心静止注2状態でAEDも使用できずに死亡した。(高校1年男子)

注2:心静止
心停止と書き間違えたのではないかと思う人がいるかもしれないが、心停止は心臓が血液を送り出せない状態を言い、心静止は心臓が電気的活動すらなくなった状態を言う。つまり心静止では心電図は平たんとなり、AEDはもう使えない。

【参考資料】

 




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