熱中症で多くの子どもたちが倒れる季節が始まる!

昨年8月に奈良県生駒市立大瀬中学校のハンドボール部で1年生の男子生徒が熱中症で死亡した事故の外部調査委員会が、4月24日に事故調査結果報告書を公表した。
【市内中学生熱中症事故調査結果報告書】生駒市教育委員会2017年4月24日付
http://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000009/9735/170424.pdf
【「部活顧問が水飲ませずランニング」奈良・ハンドボール部熱中症死亡事故で調査委指摘産経新聞2017年4月25日付
http://www.sankei.com/west/news/170425/wst1704250020-n1.html

生駒市の事故報告書を読んで、気になった点を再検証してみる。(括弧内は事故報告書のページ)
1.「死亡した生徒は肥満傾向であった」(p.3)
体重が春から5kg減少していたが、なおかつ肥満だったということは、かなりの体重ではなかったかと推測できる。しかし体重は記載されていない。事故検証において体重は非常に重要である。きちんと記載すべきだ。

熱中症を発症しやすいキーワードの1つに、「肥満」がある。
2015年8月14日神奈川県の私立桐蔭学園高校で、1年生がランニング後に熱中症で倒れ、2日後に亡くなった。彼の体重は120kg超であった。
【高1柔道部員が熱中症で死亡 神奈川】2015年8月21日付
http://judojiko.net/news/1786.html
報告書にも説明されているが、肥満傾向の生徒は、耐暑性(暑さに対する耐性)や有酸素能力(全身持久力)が劣る。学校も指導者もしっかり認識すべきだ。

2.「5日ぶりの練習参加」(p.3)
死亡した生徒は運動することが好きで、既往症も無く、部活をあまり休むこともなかった。
ただし事故当日は5日ぶりの練習参加であった。

上記の桐蔭1年生も郷里に10日間帰省していて、12日から練習を再開したばかりであった。
昨年5月に発生した群馬県館林市立中学柔道部事故も、11日ぶりの練習であった。
【群馬県でまた柔道事故が発生!】2016年7月28日付
http://judojiko.net/news/2303.html
定期試験の直後の部活で重篤事故が発生している。試験で1週間ほど部活が休止した後、突然長時間の練習を再開しているからである。
練習を何日か中断した後の練習再開時は、中断前と同じメニューを課してはならない。
軽いメニューから始め、日数をかけて以前と同じメニューに戻していかなければならないのだ。

3.「当該生徒は(他の生徒等より)4~5周ほど遅れで走っていた」(p.5)
ハンドボール部では普段15分おきに強制的に給水時間を取っていたが、8月13日14日の練習では給水の時間を取らせず(前日の部活は休み)、そして事故日の16日も途中の給水はさせてもらえなかった。
そしてこの日は通常より5分短くランニングを止めたとの理由で、ペナルティで更に5分から10分長く走らされた。
つまり死亡した生徒は5日ぶりに部活に参加したにもかかわらず、給水無しで35分から40分間走らされたのだ。
普段もこの死亡した生徒は、他の生徒より4周も5周も遅れていたのか?
今までは他の生徒と同じペースで走っていたならば、顧問は異常に気付くべき責任があった。
それこそが教師の力量だ。

4.「準備運動も無しに、すぐに4キロもの持久走」(p.5)
事故報告書では生徒たちが走らされた距離の記載は無い。しかしランニングコース1周の距離と部員たちの平均的分速や所要時間、死亡した生徒が4~5周遅れていたことから計算すると、他の生徒たちは約6キロ、死亡した生徒は約4キロ走らされていたと推測できる。
生徒たちからは、「いつもの15分での給水が無く、40分給水無しでペースも速くしんどかった」「初めて40分も走った」「遅れている人に厳しかった」「休み明けだったのでしんどかった」「給水はダメじゃないけど飲める雰囲気では無かった」「普段は吐きそうにならないのに、この日はしんどかった」「9時にランニング再開後、1周で横腹がいたくなりランニングを止めたところ『情けないな』と顧問に言われた」などの証言が出ている。
5日ぶりの練習なのに、準備運動もせず、水分補給もせず、40分間4~6キロ走らせるのは科学的な練習なのか? しかも無帽で。
この日の午前9時は曇り時々晴れ、気温29.9度、湿度71.3%で、WBGTは29度であった。
顧問が科学的知識を持ち合わせていないならば、自身で40分間給水無しで日陰の無い校庭を走ってみたらどうか。

5.「顧問が怖い」(p.3)
死亡した生徒は、日頃から「顧問が怖い」「お母さんの1000倍も怖い」と家族に話していた。
上記の生徒たちの証言からもわかるが、事故後の保護者会でも「生徒が休むことや体の不調を訴えやすい環境を整えて欲しい」との要望が出ている。
事故報告書にも「部活動指導者と生徒との信頼関係の構築が不十分だった」「過度の運動強度にブレーキをかけることのできる指導体制の構築が不十分であった」とある。
高圧的な指導は、教師にとって楽な指導方法である。しかし学校は、将来しっかり社会に巣立って行ける人間を育てるためにあることを教師は忘れないで欲しい。

爽やかな5月が始まる。しかし柔道の死亡事故事件は5月から8月がピークとなる。
授業が無いから一日中練習できるぞと、むやみやたら長時間の練習をするのは、科学的効果のある練習方法なのか?
何日か部活休みが続き家族とゆっくり休んだ後、以前と同じ練習量をこなすのは、何も問題の無い練習方法なのか。指導者も生徒も練習を始める前に一度立ち止まって考えて欲しい。

2017年5月3日




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